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「キリンヤガ」マイク・レズニック

>絶滅に瀕したアフリカの種族、キクユ族のために設立されたユートピア小惑星、キリンヤガ。楽園の純潔を護る使命をひとり背負う祈祷師、コリバは今日も孤独な闘いを強いられる…ヒューゴー賞受賞の表題作ほか、古き良き共同体で暮らすには聡明すぎた少女カマリの悲劇を描くSFマガジン読者賞受賞の名品「空にふれた少女」など、SF史上最多数の栄誉を受け、21世紀の古典の座を約束された、感動のオムニバス長篇。(Amazon)

ユートピアの寓話、と英語副題がついている。ユートピアとはどこにもない場所の意味の造語。理想郷とはどこにもないことを運命付けられている存在なのかもしれない。

SF。
主人公のコリバは西欧の高等教育を極めたキクユ族の老人。
いわゆるSFに出てくる未来都市状になっているケニアを去り、地球化された小惑星、キリンヤガに移住したキクユ族移住第一世代。象もライオンも絶滅したが、残った動植物で「西欧に汚される前の」キクユ族の「正しい世界」を作ろうと祈祷師として奮闘する。が、所詮宇宙に作られ、コンピューターで管理された世界で「無知と言う純潔」を守って昔の伝統生活を永続させようとする試みは「理想」だった。
主人公の「民族としての誇りを取り戻したい」という切実な願望は、彼自身が欧米の知を極め、その上で「黒い欧米人になろうとして何者でもないものになってしまった民族」を嫌悪する気持ちから根ざしたものだ。
この視点は、主人公が「欧米に汚されつくした」からこそ持てる視点である。つくられた「キリンヤガ」で生まれ育つ人々も、好奇心や利便性を求める心を持つ。それが結果として古い共同体を崩してしまうことを知悉している主人公は、その芽を摘むことに冷徹なまでに心を砕くが、結局、自ら代弁者をつとめる古い神と共に歴史の歯車に負け、誰でもが持っている「キリンヤガから宇宙船で去る権利」を行使する。
過去と未来、社会と個人のジレンマ。
常に前者を優先した主人公が、共同体を去った後も個人としての誇りを失わなかったさまを書いて本は終わる。
呪術を司り、気候を管理するコンピューターの存在を隠して過去の社会を再現しようとした主人公がいなくなった、作られたユートピアのその後は語られない。
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by urasimaru | 2005-05-28 16:33 | | Comments(0)
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