という講演会があったので行ってきました。(先着順無料)
まず飼育展示をしての実体験を係の杉田氏から聞きました。涙ぐましい苦労があるんだなあと思いました。
その後、NHKなどにも出演した有野専門家、九州大学の村上貴弘先生のお話を聞き、質疑応答がありました。
もえたので久々に文章を書いてみました。
ハキリアリは北米南部から中南米に生息する、「農業をする」という変わった生活をするアリです。
農業をする、というのは、アリが巣の中で菌(キノコのようなもの)を育て、そのキノコを食べて生活するということです。
植物の葉を切り取って巣に運び、巣の中ではそれをかみ砕いて練り上げ(蜂の巣をすごくランダムにしたみたいな感じで積み上がっていきます)、葉に生える菌類がアリの食料になるのです。
菌を育てて食料にするアリは他にもいるそうですが、ハキリアリの農業はその中で最も洗練されていて、
先祖代々(5千万年とからしい)うけついできたキノコはハキリアリの庇護の下、巣の中でしか生きていけず、ハキリアリはそのキノコのみを食べて暮らしているそうです。
巣は数メートルの大きさになります。土の中のトンネルは自動的に換気される構造になっていて、常に一定の温度と湿度を保ち、キノコがちゃんと育つ様に巣の外にゴミためまで作るという洗練された仕組みです。
ハキリアリは(ミツバチと同じように)一匹の女王とその娘たちで巣を作っていて、女王は20年ほどの寿命の間卵だけを産み続け、娘たちは外から農業の原料を持ってきたり、門番をしたりと分業する働き蟻で、寿命は数ヶ月だそうです。一匹ずつというより、巣全体が一つの生き物として機能している感じです。
ハキリアリの働き蟻は10種類ぐらいいて、体の大きさとか巣での役割がそれぞれ違っています。葉を切ってくるアリ、葉を運搬するときに寄生バエから攻撃されないように葉の上で仲間を守るアリ、門番のアリ、等々。
女王蟻は羽化したとき一度だけ結婚飛行を行って交尾するのですが、そのとき多数のオスと交尾していろいろな精子を取り込み、その使い分けで大きさや役目の違う働き蟻を産みだしているらしいとのことです。これは一般的なアリにはないことで、いろんな働き蟻を産みだして全体の効率を上げる特殊な生き方みたいです。
また、結婚飛行に飛び立つとき、生まれた巣のキノコを持って旅立ち、それを元手、キノコ栽培を代々続けているんだそうです。さらに、キノコ以外にも「抗生物質をつくる特別な細菌」を持っているそうです。キノコ園に悪い菌(この菌もハキリアリの巣でしか発見されない)が発生することがあって、そのときにアリは体の中からその抗生物質をだして対処するとか。農薬まで持ってるといったところでしょうか。
で、実はここからが…ほんとは本論なんですが((..;)、
村上先生はハキリアリが音でお互いに意思疎通をしていることを研究しているそうです。
アリのおしりの部分にぎざぎざがあって、それを隣の部位にある針でこするという方法です。
そして、驚いたことに六本脚のそれぞれに耳があって、それと触角で音をきいているそうです。
試しに音が出せない様にアリに細工したところ、キノコの栽培効率が落ちたそうで、それはフェロモン(におい物質)を出せない様に細工した場合よりもひどかったとか。
現在、「たすけて」とか「この葉っぱはいいぞ」とか単語と思われる音を、十数種類発見しているそうです。
そして、将来アリと話せるのでは…というのが、講演の題名の意味なのでした。
ちなみにハキリアリは農業に大打撃を与える有害生物なので、多摩動物園でしか見ることはできません。
多摩動物園ではアリを外に出さないため、何重もの安全管理を行っているそうです。
上空から見るとトンボの形になっている昆虫園本館に行くと、せっせと葉を切るアリ、それをリレーしてキノコ畑を作るアリなどがガラスごしに観察できます。
何度もみているのですが、講演を聞いてから観察すると、それぞれの働き蟻の動きに目が行って、さらに面白く見ることができました。蛹らしい白いものを運んでいるのも見られました。繭はどうするのかな?またいろいろ知りたくなったのでした。